2026年6月17日
貴金属の「総合力」強み 田中貴金属、アジアで循環型ビジネス拡大へ

総合貴金属メーカー、田中貴金属がアジア太平洋地域で存在感を高めている。半導体向けボンディングワイヤで世界トップクラスのシェアを持つ中、強みは材料供給にとどまらない。調達から研究開発、加工・製造、販売、リサイクルまでを一貫して手がける「総合力」を武器に、顧客のあらゆる課題に対応する「貴金属関連の総合ソリューション企業」として、域内での事業拡大を進める。

 2025年に創業140周年を迎えた田中貴金属が、長年培ってきた強みとして掲げるのが「貴金属技術の総合力」だ。田中貴金属の取締役執行役員の井原康孝氏は、「世界中の顧客から寄せられる、貴金属に関するあらゆる要望に応えられる体制を整えている」と話す。

田中貴金属の取締役執行役員井原康孝氏(NNA撮影)

田中貴金属の取締役執行役員井原康孝氏(NNA撮影)

貴金属の循環を東南アジアでも

 田中貴金属が事業拡大を進めるのが、使用済み工業製品などから集めたリサイクル材を自社で回収・精製し、リサイクル由来の貴金属を用いた製品の納入まで一貫して手がける「貴金属のクローズドループ」を謳うリサイクル事業だ。

 貴金属といえば金や銀がすぐに思い浮かぶが、田中貴金属が扱うのはそれらにとどまらない。高機能材料として工業製品に多用される、プラチナやパラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウムといった白金族金属(PGM)も含めてリサイクルできる点が大きな強みだ。

 これまで、電子部品などに微量に含まれる貴金属は、回収コストに見合わないとして廃棄されるケースも少なくなかった。しかし、近年の貴金属の価格高騰に加え、資源循環への関心の高まりを背景に、わずかな含有量でもリサイクル対象として回収・再利用する動きが加速している。半導体をはじめとする先端分野では、PGMの利用も拡大している。それに伴い、工業製品にはこうした複数の貴金属が複雑に混在しており、再資源化には高度な分離・精製技術が欠かせない。

 「リサイクル技術と、高機能素材の製品製造の両方を持つメーカーは、世界でも限られる」と井原氏は強調する。スクラップとして回収した貴金属を精製し、再び材料として製品開発へ循環させる――。貴金属を「資源」として途切れることなく循環させ続けられる点こそ、同社ならではの強みとなっている。

マレーシアでも貴金属循環を推進する田中貴金属(NNA撮影)

マレーシアでも貴金属循環を推進する田中貴金属(NNA撮影)

 東南アジアでも今後の貴金属リサイクル需要の拡大を見据え、現地回収業者との連携を進めている。マレーシアでは2024年に地場の大手資源回収企業MEP Enviro Technology Sdn Bhd(以下、MEPSB)と貴金属回収に関連する技術援助契約を締結した。MEPSBがマレーシア国内で廃棄物の集荷や貴金属濃縮の前処理を担い、田中貴金属が日本国内の拠点で高純度精製を実施。再利用可能な貴金属としてリサイクルする体制を構築した。

 現在、マレーシアでは本格的に貴金属回収・精製を手がける企業はいない。田中貴金属は先行者として市場開拓を進める考えで、半導体業界を含め域内で存在感を高めながら、数年以内の事業立ち上げを見据えているという。

「省貴金属」で資源の性能を引き出す

 井原氏は、「貴金属メーカーというと、貴金属を多く売ることを事業の主目的に据える会社と思われがちだが、そうではない」と強調する。同社が強みとするのは、「限られた量の貴金属でも性能を最大限に引き出す技術・開発力」だ。長年蓄積してきた貴金属の知識と加工技術で、顧客のコスト削減や高性能化につながる高機能材料として提案していく姿勢を前面に打ち出す。

 貴金属は高い導電性や耐久性などの性能を持つことで、企業による新製品の開発で材料候補として挙がるケースが多い。他方で、貴金属は価格が高く、「いかに使用量を抑えながら性能を維持するか」が重要な課題となる。近年は金価格の高騰もあり、業界では貴金属使用量を減らしながら同等性能を実現する「省貴金属化」のニーズが高まっている。また、比較的安価な別の素材へ置き換えながら、性能を維持する技術開発への要求も強い。

 「素材の知識と、加工技術を生かした、開発力が当社の強み」(井原氏)。田中貴金属は、素材を極薄化したり、複数の素材を合金化したりすることで、コストと性能の両立を図る。貴金属の使用を完全になくすのではなく、必要最小限の使用量で性能を維持することで、顧客のコスト削減要求に応える。

主力市場はアジア太平洋

 田中貴金属が海外でのプレゼンス向上を加速させる中、主力市場として位置付けるのが、インドを含むアジア太平洋地域だ。井原氏は同地域について、「最も伸びしろが大きい市場」と表現する。

 同社は、5月5~7日にマレーシアの首都クアラルンプールで開催された半導体産業の展示会「SEMICON Southeast Asia 2026」に出展した。会場では、世界シェアトップクラスを誇るボンディングワイヤをはじめ、半導体製造に関連する銀(Ag)接着剤、AgSn TLPシート、スパッタリングターゲット、プローブピン材料、めっき技術・装置、CVD/ALD用貴金属プリカーサーなど、各種貴金属材料やリサイクル事業を紹介。新規顧客の開拓に加え、既存顧客に対しても、まだ認知されていない製品や技術の提案を進めた。

 
「SEMICON Southeast Asia 2026」の同社ブース(同社提供)  

「SEMICON Southeast Asia 2026」の同社ブース(同社提供)

 
 
田中貴金属の製品は半導体の全工程で利用(NNA撮影)

田中貴金属の製品は半導体の全工程で利用(NNA撮影)

 

 今回の東南アジア開催について井原氏は、「非常に活気がある」と評価する。昨年シンガポールで開催された展示会以上に来場者が多い印象を受けたといい、東南アジア市場の勢いを改めて実感したという。

 現在、東南アジア市場は同社の売上高全体の約2割を占める。井原氏は、「今後もさらに売上高は拡大していくだろう」と期待を示す。特にマレーシアについては、英語話者の多さや教育水準の高さ、地理的優位性などを背景に、さらなる成長余地があると分析。加えて、ベトナムやインドネシアについても、今後の産業発展への期待感を示した。

 インド市場については、大手メーカーによる半導体工場建設が進んでいることから、自動車産業と並び、半導体産業が同国にとって重要な産業として成長していくとの見方を示した。

 創業141年目を迎えた田中貴金属は、その先の「200年企業」を見据えて成長加速を目指す。海外拠点での製品ラインアップの拡充、リサイクル体制の強化を進めるほか、世界規模のネットワークと高度な素材開発力を活かし、半導体やモビリティ、カーボンニュートラルメディカルなどの幅広い分野に向けて、高品質な製品と貴金属材料を安定供給する。

 顧客からの信頼を基盤に、「貴金属で困ったら、まず田中貴金属に相談する」と世界中で認識される存在を目指し、技術開発を続けていく。


<企業プロフィール>

株式会社田中貴金属グループ
本社:東京都中央区日本橋茅場町2-6-6
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